第15回長野オリンピック記念長野マラソン完走記

 ジョージさん、B2クラス3連覇の報告(2013年4月21日)

第15回長野オリンピック記念長野マラソン完走記

 昨年に引き続き今年もぎゃわさんとこの長野マラソンを走ってきました。
昨年は、僕たちの近くで一緒に走ってくださったのぶーさんのサポートもありながら、レース中盤で僕がつぶれてしまい、伴走のぎゃわさんにだいぶ迷惑をかけてしまったという思いも強かったので、今年は極力あらかじめ設定したタイムどおりに走って、最後も元気にゴールしたい。そして、あわよくば、僕がエントリーしている視覚障害の部B2クラスで今年も優勝し、3連覇を果たしたいと考えて大会当日まで伴走をしてくださるぎゃわさんや、普段から伴走のサポートをしてくださっているのぶーさんたちと準備を重ね、レースに臨みました。

 この長野マラソンの視覚障害の部は、同日開催される国際かすみがうらマラソンの視覚障害の部に比べると歴史も浅く、レベルもあまり高くはありませんが、年々少しずつレベルは上がってきており、僕の出場するB2というクラスも僕よりも持ちタイムの良い有力な選手が出走するという噂を知人から聞き「今年は優勝は無理かも?」と不安が募りましたが、何が起こるか分からないのがフルマラソンというスポーツ。当日のレースでは今自分自身が持てる力を最大限発揮することができれば、もしかしたら優勝をもぎ取ることができるかも知れない!と考え、今年は順位のことは考えず、ぎゃわさんと相談して決めた3時間14分00秒というゴールタイムのみを目指してひたすら走ろうと心に決めてレースに臨むことにしました。

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 大会前日のお昼頃、名古屋駅でぎゃわさんと待ち合わせし、駅のホームにある立ち食いそば屋で二人できしめんを食べる。非常に簡単な昼食だが、「きしめんなんて本当に久しぶりだなぁ〜。」と昔を思い出しつつ感慨深そうにつぶやきながらきしめんをすすっているぎゃわさんんの姿がとても印象的でした。
 
 昼食後はすぐに特急しなの号に乗り込み一路長野へと向かう。名古屋から長野までは3時間近くもかかるので、二人で色々な話をしながら時間をつぶす。途中、松本を過ぎたあたりから空の色がどんよりとしてきて、長野駅に近付くに連れて雨も降りだしてきたみたいに見える。
 
 長野駅に到着すると、やはり冷たい雨がかなり強く降っていて空気もひんやりとして寒く感じた。二人とも傘を持ってきていなかったので、冷たい雨にぬれて震えながら受付会場へと向かい受付を済ませると、ぎゃわさんがアイホーン5を駆使してあらかじめ探しておいてくれた長野駅前の百円ショップでレインポンチョや傘などを購入して、須坂市にあるホテルに向かった。須坂は長野市中心部よりもさらに寒く、いてつくような寒さを感じる。須坂駅前のイオンで二人で買い出しをした後、急いで駅裏にあるホテルへと向かう。
 
 ホテルの部屋ではヒーターでガンガンに部屋を暖め体を温める。やはり翌日の天気が気になり、テレビで何度も天気予報を見て確認する。天気予報によると、大会当日はお昼頃までずっと雨のようだ。スタートからゴールまでずっと雨の中を42.195km走るのは自分自身今回が初めての経験になるんだなあと覚悟を決める。
夕食を食べていると、翌日富士五湖の100kmに参加する知り合いからメールが届く。
「こちらは一面雪景色です〜」

 その知り合いは雪の降りしきる寒い中を100km走ろうとしているんだから、雨の中の42.195kmなんて、それに比べれば楽なはずだと変な勇気をもらえた。


 大会当日の朝は4時半に起床しあらかじめ買っておいた朝食をしっかり食べる。比較的大きいサイズのサンドイッチだけですでにお腹はいっぱいだったが、寒さで途中でお腹が空いてもいけないと思い、おにぎりや韮のぎっしり入ったおやきも無理やり詰め込むようにして食べた。

 スタート会場までタクシーで向かうため、ホテルを朝6時に出発しようとしたとき、入口のドア越しに外の様子を見て「うわぁ、雪が降ってるよ〜!」とぎゃわさんが驚きの声を上げる。4月も下旬に入ろうかというこの時期にまさか雪はないだろうと思っていたので、雪の中のレースは想定外、他人事だと思っていた。タクシーの運転手も「この時期の雪は長野でも珍しいですね。」とのコメント。会場に到着すると、とりあえずまずは雪がしのげる場所を探す。野球場のスタンドの廂の下を確保するが、寒くてこのままだと体力を消耗してしまいそうだ。ぎゃわさんがどこか良い場所がないか探してくるといって雪の中を一人で駆け出していく。時間が経つに連れて降り方が激しくなってきて、道路以外の場所は真っ白に積ってきているのがこの僕にも見える。何もすることがないので、とりあえず同様にこの長野マラソンに参加予定ののぶーさんに電話をかけるが、この悪天候のために出走を断念したとの回答。のぶーさんが走らないと聞いて不安からか、ちょっとした孤独感のようなものを感じる。ただ、篠ノ井のゴール付近で応援しているからと言われ「よし、のぶーさんが応援してくれるからがんばろうと思いなおした。
 
 しばらくして戻ってきたぎゃわさんのアドバイスで男子更衣室となっている体育館へと移動することにした。体育館の中もそれほど温かくはないが大勢いる人の体温などで外にいるよりはだいぶマシだ。体育館の観客席で準備をし、ほとんど体は動かさず、じっとしながら少しずつ気持ちを高めていく。この季節外れの大雪に最初は「本当にこんな状況の中走るのか!?」とおじけづいていたが、自分の伴走のために隣で懸命に準備をしてくれているぎゃわさんの姿を見ると、「この自分がこんな弱気ではいけない。こういうコンディションのときだからこそ他人より強い気持ちで臨まなければ良い結果など得られない!」という気持ちになってきた。

 前日ぎゃわさんのアドバイスで購入しておいたレインポンチョを上からかぶり、朝8時に荷物を預け、指定されたブロックに整列する。たまたま僕の隣にはぎゃわさんの競争相手でもある名古屋市役所走友会の方がいて一言二言簡単に言葉を交わす。
8時30分、ようやくレーススタート。

 スタートしてしばらくは寒さと人ごみで思うように体が動かない。雪はまだ降り続いているがランナーが走る路面は融雪剤のおかげか積雪はなく滑る心配はなさそう。ただ、所々水たまりができており、大勢のランナーによってものすごい水しぶきが上がる。また自分自身も何度も水たまりに足を入れてしまい、その度にキンキンに冷えた水がシューズの中に入ってきて足の裏がジンジンとしびれたような感覚を覚える。

 最初の1kmを5分ジャストで通過。スタートのロスが30秒なので体が動いていない中でもほぼ設定どおりに走りだすことができたみたいだ。しかし、ラップとは裏腹に自分自身の感覚はまだ体が思うように動いていないような感覚になっている。抜いたり抜かれたりするランナーとの接触もあったりで序盤はなかなかリズムに乗れないでいた。

★5km通過が23分03秒

 昨年と同様、レース経験豊富なぎゃわさんのアドバイスも得ながら5kmごとにあらかじめラップを設定した。レース中盤ぐらいまでは5kmを22分33秒で走る設定にした。スタートのロス30秒は少しずつ取り戻していけばいいから、前半はできるかぎり省エネで走ろうと今回は善光寺の緩やかな長い下り坂も無理せずゆっくり下っていく。

★10km通過45分39秒(22分36秒)

 5kmのラップはほぼ設定どおり走れているが、下り坂が多かったわりには思ったほどラップが伸びていない。まだ体が動いていないのかなという錯覚を覚える。

 10km地点を過ぎたあたりから僕の後方で伴走者と視覚障害者ランナーらしきペアの声が聞こえてくる。後ろを振り向く余裕はないがだんだんとそのペアが近づいてきているように感じる。最初は自分のラップが落ちているのかな?と不安になるがぎゃわさんの教えてくれる1kmごとのラップを聞くと設定タイムに近いペースで走れているので安心する。しばらくしてその伴走者がぎゃわさんに「名古屋の方ですか?」などと声をかけてきた。ぎゃわさんの回答を聞いて今度はブラインドランナーの方が「ジョージさんですよね?伴走の○○さんから聞いていますよ。お互い頑張りましょう!!」と声をかけてくれた。どうやら東京にある代々木公園伴走伴歩クラブ(通称:バンバンクラブ)所属のB3クラスで出走しているランナーのようだ。昨年10月末走ったしまだ大井川マラソンでこのバンバンクラブ所属の伴走者さんに伴走をしてもらうため9月に代々木公園まで出稽古に行ったことがあるので、名古屋のジョージという名前を覚えていてくれたらしい。そのランナーはB3クラスでもわりと力のある選手の一人。しばらく並走するようにして走る。

★15km通過1時間08分19秒(22分40秒)

 5kmごとに設定してあるラップよりも少し遅れ気味。
15km地点を過ぎるとエムウェーブの小刻みなアップダウンが始まる。昨年はこのエムウェーブのところにあるトイレにぎゃわさんが途中立ち寄ったが今年はどうかな?などと考えていると案の定ぎゃわさんから「トイレを見たらおしっこしたくなってきたなあ。ん〜どうしよう?」との声。僕自身も立ち止まると体が固まってしまいそうな心配はあったが少し尿意もあったので「いいですよ。次どこかトイレがあったら一緒に行きましょう。」と応える。しかし、ぎゃわさんは全く立ち止まる気配はないのでどうやら僕のために我慢してくれたみたいで申し訳ないなと感じる。

 エムウェーブの周囲を走り終え、対面ゾーンを過ぎて五輪大橋にさしかかる。昨年はちょうどこのあたりから少しずつ足が重たくなりラップが落ち始めてきたが今年はまだ足が重いという感覚はない。昨年よりはいい状態で走れているぞ!と少し気が楽になる。

★20km通過1時間31分07秒(22分48秒)

 自分の感覚よりも少し遅れ気味のラップ。1kmごとのラップを上げる勇気はないがまだ比較的気持ちよく走れているのでこの感覚のまま行こうと考える。
20km地点過ぎにぎゃわさんのアドバイスでエネルギーを補給。また気分的に楽になったような感じになる。

★ハーフ通過1時間36分02秒

 昨年と比較するとハーフ通過タイムは20秒前後しか変わらないが体の疲れ具合は全く違う。ぎゃわさんからもすかさず「昨年はこの地点ですでにつぶれかかっていたけど、今年は横で伴走していても大丈夫そうに見える。昨年とは全然違うと感じるんで今年はつぶれずにいけると思うよ。頑張ろう!」と励ましの声をかけてくれる。

★25km通過1時間53分51秒(22分44秒)

 設定ラップよりも10秒ぐらい遅い状態ではあるが、何とかこの25kmまでは大きな落ちもなく走れてきたなあとほっとする。しかしレースはここから。本当の苦しさはここから始まる。25kmを過ぎると幹線道路を離れ、田畑が広がる細い道路に入っていく。例年だとこの地点には所せましと応援の人たちが大きな声でエールを送ってくれるのだが、今年は悪天候のために沿道には全くと言っていいほど人がいない。雪に交じって冷たい風も容赦なく体に吹き付けてくるが、スタート前からずっと上にかぶっているレインポンチョがそのお値段以上に大きな役割を果たしてくれて、僕自身はほとんど雪や冷たい向かい風によるダメージは感じずに走ることができた。しかし、やはりまだまだ走力のない自分のことなので、このあたりから少しずつ体に疲れを感じ始める。

★30km通過2時間17分08秒(23分16秒)

 もう一度エネルギーを補給し気持ちをリセットする。ぎゃわさんからも「さあ、もうちょっとガンバレよ!!」とゲキが飛び体に気合いを入れなおす。

★35km通過2時間40分55秒(23分47秒)

 もうちょっと粘って頑張らねばという気持とは裏腹にラップは少しずつ落ちていく。ぎゃわさんが「少し前にぽっちゃりしたランナーがいるよ。離されないように頑張ろう。」と僕の気持ちを刺激してくれる。「ぽっちゃりしたランナーなんかに負けてなるものか!」と必死で頑張るが、少し油断するとすぐに離されてしまう。
37km過ぎ、雪もやんだように感じるので、もう一度気持ちをリセットしてラスト頑張ろうと思い切って着てきたレインポンチョを脱ぎ捨てる。

★40km通過3時間05分06秒(24分11秒)

 とうとうここまでラップも落ちてしまったかぁと悔しい思いに駆られるが、ラスト2.195km精一杯頑張ろうと前向きに考えるようにする。ぎゃわさんからも「さぁ、ラストだよ。ゴール会場が見えてきたよ。のぶーさんも応援しているだろうからいいところ見せようよ!」と激励の言葉がかかる。

 昨年の長野マラソンからこの1年、本当に多くの天白川走友会の皆さんに支えてもらったなあと走りながらつくづく感じる。今横で懸命に伴走してくれているぎゃわさんのほかにも、のぶーさん、中神さん、石垣じろーさん、よいこさん、クメッチさん、トシさん、しお○らさん、よしこさん、ゆかりんさん・・・と今までレースや練習で伴走をしてくれた走友会の皆さんの姿が頭の中に浮かぶ。今伴走してくれているのはぎゃわさん一人ではあるが、走友会のみんなが僕の周りでエールを送りながら並走してくれているような錯覚に陥り自然と体の奥から力が湧いてきた。

 キロ4分55秒ぐらいまで落ちていたラップが40〜41kmの1kmでキロ4分41秒まで上がった。ラスト1kmちょっと、のぶーさんはどこにいるのかなと耳をそばだてながら最後の力を振り絞って走る。42km地点を過ぎゴールとなるオリンピックスタジアム(野球場)へと入ってきた。最後までのぶーさんの声を聞くことはできなかったが当初の願いどおり元気にゴールラインを踏むことができた。

★ゴールタイム3時間15分28秒

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 目標タイムには1分30秒ほど届かなかったですが、この悪天候の中自己ベストをまた少し更新することができ嬉しく思っています。さらに、B2クラスで運よく優勝することができました。これも全ては会の皆さんの支えがあったおかげだと思っています。特にレース当日は雪が降りしきる過酷なコンディションであったにもかかわらず、この僕のためにしっかり準備をし、ゴールまで素晴らしい伴走をしてくださったぎゃわさんには本当に本当に感謝しています。寒い中本当に大変だったと思います。

 表彰式のときに、2位の選手の伴走者が僕のトロフィーを指さしながら「来年こそはそのカップ取りにいくからな!!」と悔しそうに言ってきました。来年はさらに高いレベルで競い合えるように僕自身ももっともっと走りこんで走力をつけたいと考えています。
会の皆さんにはまた色々とお力をお借りしたいと思いますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。